「無」から10年目の畑で
—— 秋元さん、本日は宜しくお願いします。
お話の流れとしてはだいたい10個ぐらいの簡単な質問がございます。
BIASTRA.jp(以下、ビアストラ)のメディアコンセプトはBIO(生命)+ASTRAL(精神体)です。
食の影響は、食べたものが肉体へ、精神へ、文化へ、国へ、地球へと、スピリチュアルなところまで影響を与えるのが食の世界と考えてます。
そしてこの食業界から精神世界へ善の貢献が感じられる方を日本中で取材していこうという試みがビアストラです。
秋元: へぇ、すごいですね…(STAFFの足元を見て)あ!そこ、全部畑です。
—— あ、すみません!
秋元: (足元の土、緑:よく見ると数種類のベビーリーフを指差し)これ全部食べ物なんですよ。
—— えぇっっ!!
秋元: これ全部食べれる。いや、堀田さんと全く同じ考えです。ここの畑は自然栽培で「無」から10年かかったんですけど。
—— 10年?!
秋元: 肥料を抜いたり、自然栽培がルーティンとして可能になるまでに。約10年、10年目なんですよ。
多分、自分のスピリチュアリティーを上げていくしか、(畑を指差し)もうこの子達との共存は無いところまで来てます。
今日ね、Facebookに出そうと思ったんですよ。自分のバイブレーションをどうやってあげられますか?って。
で、皆メディテーションって言うんですね、瞑想。もちろん、もちろんそうなんだけど、作業している時って瞑想っていうかね、なんか「無」っていうか「無心」じゃないですか?もう、向こうの言っていることを掴み取ろうとして一生懸命。だから、もうここ3年はその向き合い方…ですね。
—— 向き合い方、自分自身を高めていけばということですか?
秋元: そう、1個気づいたんですけど、皆1回ここ(大地を指差し)で死ぬんですよ。ここ、ばら蒔きの畑なんですけど。ここバーっと(種を)蒔いただけ。冬って北海道寒いから、みんな(野菜たち)死んじゃうんですよね。
だから自分自身、死に場所を与えてるっていうのが、去年ぐらいからすごく心に突き刺さっていて。命を終える場所を提供しているんですよ。でも、命をちゃんと繋いでいるから、そこをまっとうさせる具合を人間と一緒に、人間の僕たちが一緒に居させてもらっている。
まぁ、僕もこうやってレタス摘んでますけどね(笑)これ食べれますよ。
こっから食べ物。(野菜が生えている土を指差し)ね?
—— あ、本当だ
秋元: これはオオバコ。これは食べれるけど野草と言われいてますね。ここから、コマツナが生えてるよ。豆が生えてたり、これはわさび菜がとう立ちしてたり。これ、ハツカダイコンとう立ち。今、日が短くなってきたので、生命を維持しながら子孫を残す準備をしてますね。あと、これルッコラの花。
—— わぁ、ルッコラの花って初めて見ました。
秋元: そうなんです、可愛いんですよ。すっごい主張しているんだけど、控えめな感じの花で。
秋元: わかる? 白いお花がそうだよ。
そういえば僕、家庭菜園推進プロジェクトをやっているんですよ。
—— へぇー!面白い!家庭菜園プロジェクト?
秋元: 一般の人で家庭菜園をやっているけど、どうも上手くいかないとか、無肥料栽培にチャレンジしたいとか、「本当に肥料が無くてもできるんですか?」って言う人とか。
—— (スタッフ頷く)
秋元: 今回は5人くらい応募があって、月に1回僕が講座をやらせてもらって、皆さんに自然栽培に触れてもらいながらやっているんですよ。
一応ここ(秋元さんの畑)でモデルを作って、こっちは家庭菜園らしく並んで植えて、もう1個は「えいっ」ってばら撒いて作っているんですよ。
ここは本当に種を蒔いて上から草をかけただけなんです。
この草の下にある双葉ちゃんたちが芽吹き始めた野菜たちです。コマツナ、からし菜、わさび菜、ルッコラ、べんり菜、あとちんげん菜もすこしあるかな…。
何種類かの種をバラバラバラ〜と蒔いて「がんばってね〜」って声かけてあげるの。かぶせる草は、畑で刈りとったもので。あとはね、タンピング。
—— タンピングとは何ですか?
秋元: タンピングっていうのはね、土の隙間に、団粒と団粒の間に種が挟まっていくイメージでぱっぱっぱって(優しく土を押さえる)「頑張れよ〜」って土を押さえることね。
—— ふぅ〜ん、なるほど…(深く頷く)
秋元: で、それやって2ヶ月経ったのがこれなんですよ。(隣のよく育った葉物野菜を指差し)
—— えぇ!これが?! たくさん生えてますね!
秋元: ばら蒔きをやると意外に草の始末が楽で。雑草が生えてきたなーって思ったら、こやって抜いちゃったりして。(その場で雑草を引っこぬく)そう、あとこれがミニトマトと大玉トマト。
あ、皆さんもこちらへどうぞ。(トマトのあるビニールハウスへ)
—— ありがとうございます。お邪魔します。
原種の環境と宇宙のリズムで育てたトマト
秋元: ヒロト君、こっちこれる?(秋元氏の足元へ招く)トマト、美味しそうなの選ぼうか。うん、そのトマト真っ赤だね、食べてごらん。
大人の皆さんもどうぞ。これ、皆さんどうぞ召し上がって。(真っ赤なミニトマトを差し出してもらう)
—— おぉ、すごい、美味しそう!いい香り、いただきます。
わ!ジューシー! ヒロト美味しいね。本当に綺麗な色したトマトで美味しい!目が覚めるうまさです!うん、気持ちが変わる味。
秋元: (トマトに向かって)みんな、美味しいってさー。
秋元: もう一個食べる? どうぞ。皆さんもどうぞ。
まだこのトマトは味にバラつきがあって、トマトの木の上の花になってくると美味しくなるんですよ。
秋元: 今、トマトも一段目、二段目の花だから。
トマトもどうやって実を作ろうかって考えてるとこなんですよ。人間の子育てと一緒。最初のお産と子育てを終えて、トマトもわたわたしているんです。
もっと美味しく、人間で言う大人らしくなるにはトマトの花が皆さんの腰ぐらいの高さになると美味しくなりますね。
でも、今気温があっついから、トマトが求めてる暑さじゃないから。
—— トマトが求めている暑さ?
秋元: うん。自然栽培はね、みんな原種って言って、元あるトマトのルーツの環境で育つことが重要なんです。
今、皆さんが食べているトマトの原種はアンデス地方が原産と言われていて、気温は20度ぐらいのもので、ものすごい空気が乾燥していて、岩清水というか少ない水分をキャッチして育ってきたものです。
今は品種改良されて、管理栽培に向いたものが作られているんだけど。無肥料栽培なので、肥料をあげないことが大前提なんです。
原種の環境に極力近い状態で、だからこうやって土もからっからな状態にしているんです。
—— 原種の本来あった環境を意識するという
秋元: そう。歩くだけで砂埃が舞っちゃうぐらいなんですけど、これが自然に一番近い状態なんです。水もあんまりあげてないんですよ。もちろんあげるんですけど、満月の大潮の時にすごく水を欲しがるので、その時にちょっとずつ様子を見ながらあげています。
—— 秋元さんは新月にも何かしたりしますか?
秋元: 種まきと苗を畑に落とす定植は全部月に逆らわず行っています。自然栽培はそういったことをアドバンテージに持たないと多分うまくいかないと思います。特に北海道の環境に無理やり合わせて育てないといけない植物は、最低限それをやっていないとうまくいきません。
—— 宇宙のリズムに合わせるということでしょうか。
秋元: そうですね、人間も一緒で女性は生理が来たり、排卵が来たり、男性も月が高くなるとイライラしたり、喧嘩っぱやくなったり、アグレッシブになったり、全部コントロールされていると思うんですね。植物は人間よりもっと純粋に、素直に、もっと的確にそういうのをやっているんですよね。
変な話、去年ここのハウスに大きいトマトを満月に定植したんですよ。そしたら今ぐらいの時期に全滅しましたね。8月のお盆前に全滅…。病気出しながら、味は落ちるし、もう出荷したくないから今度は売らない!って決めたら、もう途端にみんな(トマト)病気になり始めて、バタバタ枯れ始めて、全滅しました。
だから、今年は新月に定植しました。6月2日ぐらい。新月の3日ぐらい前が1番良いって言うんですけど。お月様が地球の裏側に行くから下から引っ張りますよね。地面から引っ張られるから、植物は根を張るんです。
秋元: で、満月は上から引っ張られているんで、植物は養分を下からすごく吸い上げる。水と一緒に養分を吸い上げるんで、水をたくさん欲しがるんです。
だから昨日までは様子見ながらですけど、結構お水をあげてました。
—— つい数日前に綺麗な満月が見えましたね
秋元: そうですね。6月22日が満月だったので、そのちょっと前ぐらいから水をトントントンとあげて。満月がピークになる大潮で、次は月が欠けてくる頃には種まきを始めました。種も細胞なんですけど、引っ張られて伸びるので根を出しやすくなるんですね。最初に発根するんです。根が出てから、芽が出るんです。で、根を深く伸ばしていくのが次は新月なんですね。だから、月に1回しかチャンスないんですよ。
—— 確かにチャンスは月1回ですね
秋元: お水をたくさんあげたらトマトは大きくなります。膨らむからね。水と養分をあげればトマトはどんどん大きくなりますよ。でも、それを食べてどう体に作用するか。メタボな食べ物を食べてメタボになりたいのか?って話で。
—— なんだか人間みたいなお話ですね
秋元: そうなんです。だから甘やかさないで、健気に育ってもらってるんです。
—— 適切な量で、適切な時期にってことでしょうか?
秋元: そうです。こっちも素直に向き合っていくしかないので。
—— とても楽しいお話です。
“戻ろう”とする力
秋元: 基本、僕ら生命体なんで。命の話って純粋じゃないですか?
例えば、子猫を道端で拾ったとして、育てたいけど育てられなくて…みたいな話あるじゃないですか。でも、僕らがやっていることって僕らが育てたくて育てている野菜だから、ちゃんと責任をとらなきゃいけないと思うんです。
(トマトを見て)この子達は命をまっとうするのに真剣なんだから、僕らも真剣にそれに向き合わなきゃ。その分、余計な手出しをしていることもある。ありがた迷惑なこともあるだろうって思う。例えば、こうやって紐で吊るしちゃってることとかね。トマトって元々は地面を這う植物なんですよ。
—— 元々地面を這う、始めて知りました
秋元: そう、だから元々は地面を張ってるやつを無理やり縦にしているんですよ。収穫しやすいように、管理しやすいように人間の都合で変えたんです。ほとんどが通路が決まっていて、トマトが等間隔で植えられていて、植える面積が決まっていてっていう…。
うちは好きなようにやらせてるんです。株の間だけ何センチって決めて、あとは自由!
植物も音楽と一緒なんです。音楽の場合は基礎が大事じゃないですか。植物の場合は根です。根を作って、木を作って、その証として立派な実をつける。だから、目に見えない部分がすごく重要であって、人間は植物に水しかあげることができない。そしてうちの農園は植物に水しかあげていない。それも、羊蹄山の湧水をね。
では、次は第2の畑へご案内しますね。(ビニールハウスを出て、秋元氏の森の隣接する農園へ向かう)
自然本来の姿の畑
秋元: 森と隣接している畑ってすぐ草が生えてきちゃうのね。動物もすーぐ集まるし。とにかくクリーンアップした場所って元に戻ろうとする力が強いんですよね。
—— ここは空気がとてもクリアですね。”元に戻ろうとする力” ですか…
秋元: そう、どこの学者さんも言ってたんだけど、もし都市が消滅したら、人間が都市からいなくなったら最後に残るのは植物だと言われてるんですよね。
で、植物が全てを覆ってビルをも締め付けて倒壊させて自然に帰っていくって。どの学者さんがやっても、スーパーコンピューターがどれだけシュミレーションしてもその結果になるって。マンパワーでやっても、機械の力でやっても最後は緑に覆われる。
畑も一緒で、最初に除草剤蒔いて畑を起こせば土の畑になれるんですけど。とにかくここは草が生えたがるんです、裸で居たくないんです。一説にはそこに足りないものが生えてくると言われています。
例えば、そこの土が酸性の強いものであれば酸性の強いものが生えて、自分が死ぬ時に発酵させたり化合して、どんどん酸性を和らげてく方に傾けていくと言われています。
だから、ここはスギナやオオバコ、ギシギシ、ダイオウが生えてたりするのは必ず土に対して何かしようとしている草が生えてきている。(土から生えてる草を指差し) これはオーチャードと言って北アメリカから伝来した牧草なんですよね。これは根も強いし、クローバーと一緒で集団でいるのが好きなやつで、主張の強い草なんですよね。毎年生え変わって、牧草地をちょっとずつ使ってって毎年やっていくと全く肥料のいらない無肥料のいわゆるハイカーボン素材になるんです。
自然栽培、自然農法は根っこは炭素循環肥料。要は、微生物循環とも言えるし、炭素循環とも言える。草も刈ったらなくなるでしょう? それは微生物に分解されているということなんです。
うちは動物性肥料もあげない、植物性のものをやってます。
これ、僕の宝物、肥料。(草を指して)土のごはん。土のごはんは草。これさえあれば良いんです。ただし、野菜はお坊ちゃまやお嬢様気質が多いから、草と一緒に育てると野菜が負けちゃうんですね。だから、僕ら人間が最低限のお世話をするんです。最低限のお世話っていうのはヨモギとかダイオウに野菜が負けないように日陰を取るために草取りをするんです。
いろんな理にかなっている農学もあるけど、うちの場合は野生化させることを重点に置いてます。
「農」と向き合う気持ち
秋元: そうそう。ここには宗教家の方がくると感動するし、UFOが好きな人がくるとUFO見れるし、農業をやっている方もたくさん日々訪れています。
—— ここにきて、泣いてしまいませんか?
秋元: はい、泣きます。
普通の慣行栽培をやっている農家のお嫁さんとか。
みんなそれぞれやり方がある。だから押し付けることはしない。
戦後まもなく農薬が入ってきて、堆肥をやめて化学農法を推し進めて「とれるだけとれ!大事なのは目方が勝負だ!どんどん作ってどんどん売れ!」って言われたりした人もいたでしょう。
みんなそれぞれの哲学で「農」と向き合ってきたはずだから。自然栽培をやっている仲間でさえ、ちょっとずつ違うんですよ。
—— (深く頷く)
秋元: 自然栽培の仲間とは80%共感してるけど、「俺だったらその草とらないな〜」とか「そこまで草刈り丁寧にやらないな」とか絶対あるんですよ。でも、慣行栽培のお父さん方とは必ずしも一致できる部分がすごく少ないから何も言わない。ショックを与えたくない。
最初はね「みんな、これやろう!オー!」って感じでやってたんですけど、もう今は言えない。気づいた人、始めたい人がやればいい。
で、一番啓蒙しやすいのは 家庭菜園家。
農と向き合いたいピュアな気持ちを持っているから。
自分の食べ物を自分で作って食べたいっていう人たちだから。
だったら、無肥料で無農薬でやってみませんか? って伝えるとスッと受け入れてくれる方が多いように思います。
農をやる人に痛みを伴う農法、要は生産量が落ちて製品率が落ちて出荷量が減る農法は、それなりの単価をつけて売らなきゃいけないわけだから、それなりのルートが必要なんです。
「今の生活習慣やめて今日からずっと冬も水着で過ごして!」…って言われても困りますよね?
—— 困ります!
秋元: ですよね。だから自分はそういうことするのをやめたの。
—— あぁ、なるほど。
秋元: でもね、僕の頭のタンスの中にはいろんな水着があって、「あなたにはこれが似合います。」っていう話は来てくれた人にだけ話すよ。だから、中学生でバンド始めた時は「俺バンドやってるぜ!バンドマンだぜ!」って気持ちだったんだけど、10年経ったら上には上がいて、自分の立ち位置が見えてくる。
今ようやくひとつずつ、皆さんに手渡していくタイミングを図れるようになってきたように思います。
—— 貴重なお話をありがとうございます。そういえば、秋元さんはどうして自然栽培をここニセコで行うことになったのですか?
秋元: 旅とスノーボードをするにあたり、ニセコに移住してきたんです。そうすると生活はよりシンプルに、化学的なものを排除するようになり。で、ニセコで10年かな? アウトドアのガイドをやっていたんです。
旅をしている時から地球環境って儚いんだなと思って。保全しながら人間と自然の距離を保てる仕事がしたくて、アウトドアガイドを選んだんです。
—— なるほど。自然の中で自然と自然栽培の方へ進まれた。自然を尊く感じること、それがニセコでは日常ですね。
秋元: ニセコに移住した1年目に家庭菜園を始めたんです。もう、1年目から無肥料、自然栽培で作っていました。
その時に「福岡正信(日本の自然農法の提唱者)」の本に出会ったのがきっかけですね。
—— 全ての食に関する方で、秋元さんがお会いしたい方や尊敬している方などはいらっしゃいますか?
秋元: 道場六三郎さんとか好きだけど、誰を目指すとかそういうのはないなぁ。
最近思うのは誰でもできるんですよ。ロシアとかキューバとか家庭菜園で救われている人もいる。
だから誰に会いたいとかよりも、海外で伝統的なオーガニックの自然栽培をやっている方にはお会いしてみたいですね。
—— もし、今後インタビューで繋がった際にはビアストラとして何処へでも取材へ行きますので、秋元さんも一緒に来てくれますか(笑)
秋元: 是非とも!行きたいです! キューバとか、エクアドルとかね。ブータンなんて国をあげて自然栽培を推し進めてるところだから。
—— いこーいこー!
—— 世界の食のムーブメントの中で私たちはまだ知りたいことがありますね。秋元さん、長時間貴重なお話をして頂き本当にありがとうございました。
次回ゲストのご紹介
—— そして最後になりますが、秋元さんがこの食業界で善に貢献していると思う方をビアストラへご紹介をお願いできませんか?
秋元: 今金町のトマトソムリエ 曽我井さん。
札幌のイタリアンレストラン「sagura」とかいくつかのお店にトマトを卸している方で。他にもお米を作ってたり、色んな種類の野菜を作ってたり、その人面白いかなーって思うんだけど…
なによりうんちくが凄い!深い!是非会ってみてください。
—— 秋元さんご紹介ありがとうございます。次回の北海道で曽我井さんへコンタクトさせていただきたいと思います!
本日はとても素敵な畑での取材を、本当にありがとうございました。
秋元: ありがとうございました。